秘密の地図を描こう

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 それでも、彼の声をいつまでも無視するわけにはいかない。とりあえず、声が遠ざかったのを確認してドアを開ける。
「また、来ますから」
 この言葉にキラはうなずいてくれた。それを確認して、素早く廊下へと出る。
「……さて……どこで合流するか、だな」
 下手な場所だと真に疑問を持たれかねない。その結果、キラのことを知られるのはまずいような気がする。
「あいつの、あの一言さえなければ気にしなかったんだがな」
 彼が何気なく口にしたあの一言。それがレイの中で警鐘を鳴らしているのだ。
 もっとも、ラウが――たとえ意識がない状況とは言え――生きて戻ってこなければ、自分も同じような感情をキラに抱いていたかもしれない。
 その可能性を考えただけでも背筋に氷を詰め込まれたかのような恐怖を感じてしまう。
「ともかく、今はシンだ」
 何の用事かはわからないが、本気で自分を探しているらしい。ならば、疑念を抱かせないようにしなければいけないのではないか。
 最悪、ギルバートの手を借りることになるかもしれない。
 しかし、その前に自分で何とかできないかを考えるべきではないか。そのくらいできなければ、キラの護衛という役目は務まらないだろう。
「とりあえず、外から帰ってきたという偽装をするか」
 そうするなら、どこがいいだろうか。
「玄関、かな?」
 屋上であれば、すでにシンが探している可能性がある。しかし、寮の外であればすれ違ったと言ってごまかすことも可能だろう。
「とりあえず、窓から出るか」
 二階程度ならば、飛び降りても何ともない。そこからゆっくりと玄関まで移動すればいい。そう判断をして、手近な窓へと駆け寄る。周囲を確認してから飛び降りた。
「さて、と……うまくごまかされてくれよ」
 そうでなければ、やっかいなことになる。
 彼は初めてできた《友達》と言える存在だ。できれば失いたくはない。
 もちろん、彼とキラでは比べるまでもないというのも事実だ。
 それはギルバート達も同じだろう。
 だから、と思いながら玄関の方へと移動をする。
 そのままエントランスに足を踏み入れようとしたときだ。
「レイ!」
 タイミングがいいのか悪いのか。そこでシンとあってしまった。
「探してたんだぞ」
 彼はそう言いながら歩み寄ってくる。
「それは、悪かったな」
 で? と問いかけた。
「お前……」
 その反応が予想外だったのか。シンは仏頂面を作る。
「俺を探していた理由がわからない。だから聞いているんだが……おかしいか?」
 それに対し、こう言い返す。
「……それは、そうかもしれないけど……」
 もう少し、な……と彼がぼやいたときだ。
「バレル、見つかったか?」
 彼の背後からミゲルが声をかけてくる。
 別に彼に何も頼まれていないのに、と思う。
 だが、すぐにキラが彼に連絡をしたのだろうと判断をした。
「申し訳ありません。こう暗くては……」
「やっぱ、なぁ……仕方がない。明日、早起きして探すさ」
 悪かったな、と彼は言う。
「後できっちりと礼をさせてもらうから」
「いえ。お気になさらずに」
 そう言う彼に、レイは微笑みを返す。
「それで、お前の用事は何なんだ?」
 視線を真に戻して再度問いかける。
「……あ……えっと……」
「緊急の用事ではない、と言うことか?」
 さらに言葉を重ねた。
「緊急事態というか……お前、約束をぶっちしているだろう?」
 ルナ達との、と彼は視線をさまよわせる。
「ルナマリア達?」
 何のことだ、と首をひねる。
「別に、約束をした記憶はないが」
 いくら考えてもそんなことは思い出せない。
「ルナは『した』と言っていたぞ。お前がうなずいているのは俺も見たし」
 この言葉に今日のことを一つ一つ思い起こす。
「……あれか……」
 だが、あれは約束でないぞ……とレイは言い返す。自分はちょうど手元の端末で別の作業をしていたときではないか。そう主張をする。
「……あきらめるんだな。女性は自分の都合のいいように考えるもんだ」
 それができないとふられるのさ、と口にしたのはミゲルである。
「まぁ、俺の所為だからな。とりあえず、都合が悪くなったら責任を押しつけてくれていいぞ」
 そう言う彼にレイはうなずく。
「ともかく、顔だけでも出してこい」
「はい」
 確かに、ルナを放置しておくと後が怖い。だから、と素直にうなずいて見せた。

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最遊釈厄伝